【脳の仕組みを知ればリスニングスキル上達への道が開ける】

リスニングスキル上達への道を開きたいのなら、学習方法やテクニックを調べること以外にも大事なことがあります。それは、「脳の仕組み」を理解しておくことです。リスニングスキルを身につける上で、私たちの脳は重要な役割を持っているからです。

 

リスニングス習得プロセスにおいて、私たちの脳は2つの大切な働きをします。一つは、耳で感知した音が「言葉」であるかどうかの認識・区別することです。そしてもう一つは、「言葉」として認識した音を短期間あるいは長期間記憶する役割です。

 

この記事では、年齢と英語習得に関して「脳の仕組み」の観点から解説していきます。また、その仕組みを上手く利用したリスニングの学習方法を考えていきます。

【なぜ日本人は英語を聴き取れないのか?】

日本人が一番苦手としている英語スキルは、リスニングであると言われています。その理由として、「発音が聴き取れない」というのがよく挙げられます。

 

英語には、「リエゾン(リンキング)」やリダクションなど日本語にはない独特の発音ルールがあります。そのため、英会話では文字どおりの発音がされないことが多くあります。このルールが、リスニングを難しくしている原因の一つであることは間違いありません。

 

しかし、私たち日本人がリスニングを苦手としているのには、もっと深い理由があるのです。その理由とは、次のとおりです。

  1. 日本語と英語の周波数の違い
  2. 日本語以外は「雑音」
  3. 「9歳の壁」の存在

それぞれについて、もう少し詳しく解説していきます。

<1.日本語と英語の周波数の違い>

 

周波数とは、空気中に音が伝わるときにの振動数をいい、単位はHz(ヘルツ)で表されます。

 

日本語は世界から見ると周波数が低い言語であるのに対して、英語は周波数が高い言語です。また、同じ英語でもアメリカ英語(米語)とイギリス英語(英語)では周波数が違います。

 

こちらは、日本語・米語・英語の周波数です。

表を見ると一目瞭然です。日本語と米語では、交わる部分がありますが多くはありません。英語に至っては、全く交わることがありません。

 

更に、各言語のよく使われる周波数範囲に絞ってみてみると、かろうじて交わる部分のあった米語ともほとんど重なる部分はなくなってしまうことがわかっています。

 

たかが周波数の違いがリスニングに影響するのか、と疑問に思うかもしれません。実は、周波数の違いは、とても大きなことなのです。

 

私たちは、母国語を最適に使えるようにするため脳やその他の器官を成長とともに発達させていきます。つまり、必要のない部分は退化していくのです。母国語が使えるようになればいいので、これはむしろ正常な発達の仕方だと言えます。

 

ですので、母国語が日本語である私たちにとって、不必要な音であるとされた英語が聴き取りづらいのは、自然なことなのです。

 

<2.日本語以外の音は「雑音」>

 

私たちは、母国語をうまく使うことができるよう、脳と器官を母国語に合わせて最適化していきます。

 

その結果、母国語以外の音を「雑音」として認識するようになります。

 

したがって、英語をただ聴き流すだけでは決してリスニングスキルを向上させることはできません。ずっと「雑音」を聴いているだけだからです。

 

仮に聴けたとしても、その音は「言葉」として認識されていません。一度母国語に最適化された脳は、母国語にない音を認識することは困難で、母国語に近い音に置き換えてしまうからです。

 

日本人のカタカナ英語は、こうした理由で起こります。脳が、聴いた音を何とか再現しようとしているのです。日本語は英語ほど母音が多くないので、同じ音を再現するのが難しいのです。

 

<3.「9歳の壁」の存在>

 

日本語と米英語では、周波数の違いがあり、日本人にとって英語が聴き取りづらい原因の一つになっていることをお話ししました。

 

しかし、生まれた時からそうであったのではありません。幼少期では、どんな周波数でも聴き取ることはできます。「子供のうちに英語をやっておくといい」というのは、このためです。

 

しかし、あらゆる周波数を聴き取る年齢も限られています。

 

これは、「9歳の壁」と呼ばれているもので、この年齢を過ぎてしまうと母国語以外の言葉の習得が難しくなってきます。脳や器官が、成長とともに母国語を使用するために最適化されてしまうからです。

 

もちろん、9歳を超えても母国語以外の言葉をネイティブレベルで習得できます。ただし、そうするためには学習環境と時間を十分に整える必要があります。

 

年齢に関しても、7歳あるいは4歳とさまざまです。臨界期説と言われている仮説の域を出ないものなので、はっきりしたことはまだ分かっていないようです。いずれにせよ、幼少期に言語学習を行なうことがよいということには変わりありません。

 

すでに成人している日本人には、「子供のように自然に英語を学ぶ」方法は適していないことがわかります。

【「脳の仕組み」を利用した大人の英語学習】

私たちの脳は、母国語を上手に使うことができるよう、成長するにしたがってその機能を変化します。それと同時に、不要になった機能を退化させていきます。

 

しかし、大人になっても語学が堪能な人はいます。

 

それは、脳の機能が優れているというよりは、語学の才能があると言った方がよいでしょう。スポーツや音楽など、ある分野において人よりも優れた能力を持っているのと同じです。

 

では、母国語を上手に使うために最適化された脳では、他の言語を学ぶことはできないのでしょうか?

 

けっしてそんなことはありません。成人になっても英語を身につけることはできます。たとえ才能がなかったとしても、「脳の仕組み」をうまく利用して勉強する方法はあります。

 

ここでは、「脳の仕組み」を使っての英語学習方法を解説します。

 

<音読で「雑音」を「言葉」に変える>

 

リスニング学習で大切なのは、「英語が聴けるようになること」です。それには、「音読」で「聴ける音を増やす」方法が有効です。

 

巷によくある「ひたすら英語を聴けば、そのうちできるようになる」という方法をおススメしません。すでに母国語に対して最適化してしまった脳では、母国語以外の音は「雑音」と認識されてしまうからです。

 

リスニングスキルを磨くためには、ただ耳で聴くだけではなく、実際に口を使って正しい発音を脳に刷り込まなくてはいけません。このことに関して、脳が「言葉」と認識する仕組みを交えながら、詳しく説明していきます。

 

聴き取った音は、まず「ウェルニッケ野」と「運動前野」という場所に信号に変えられて送られます。ここで、聴いた音が「言葉」なのか「雑音」なのかを、脳内のデータと照合して判断しています。そのスピードはすさまじく、脳が持つ機能の素晴らしさを思い知らされます。

 

脳が「雑音」か「言葉」かを判断するためのデータとは、一体どういうものでしょうか。それは、「口」「舌」「あご」「声帯」などで自ら作ったことがある音です。そして、耳を通して入ってきた音を、脳はこのデータを使って一瞬のうちに「雑音」か「言葉」かを判断するのです。

 

したがって、脳が判定を下すためのデータを蓄積するためには、あなたが実際に声に出すことが必須となります。つまり、「音読」を行なえば行なうほど、より多くのデータを蓄えることができるのです。

 

また、自分の声は体内の骨伝導で精密に脳に伝わるので、耳で英語を聴くよりも断然効果的でもあります。

 

ですので、「音読」をしているときは「発音」にも注意することです。発音が正確であれば、データとしての音もより正確になります。

 

リスニングスキルをできるだけ早く上げたいなら、ただ英語を聴くのではなく、「音読」を積極的に行なっていきましょう。

 

<記憶の仕組みを利用する>

 

普段、私たちが触れる情報量は膨大で、その全てを脳に保存することは不可能です。そのため、脳には「短期的に情報を入れておく場所」と「長期的に情報を保存する場所」が存在します。

 

「短期的に情報を入れておく場所」は海馬、「長期に情報を保存する場所」は大脳皮質と呼ばれています。

 

英語力を付けるためには、大脳皮質に英語学習で身につけた情報を保存させないといけません。では、どのようにすればいいのか、脳と記憶の仕組みから考えていきましょう。

 

まず、外部からの全ての情報は海馬に「短期記憶」として入れられます。

 

そして、この海馬で記憶の「選別」が行なわれます。選別基準は、「この記憶は自分にとって重要不可欠か、または生命にとって危険かどうか」です。ほとんどの情報は、重要不可欠でもなく生命の危険をさらさないものだと判断され、睡眠中に捨てられてしまいます。

 

あなたは、ある英単語を聴いてその場では覚えていたとしても、次の日にはすっかり忘れてしまっていないでしょうか。忘れてしまっている理由は、それがあなたにとって重要でもなく、生命を危険にさらさないと、海馬が判断した結果だからです。

 

海馬が「この情報は必要不可欠、覚えておかないと生命にかかわる」情報と判断してはじめて、「長期的に情報を保存する場所」である大脳皮質へ移動します。

 

大脳皮質へと移される記憶は、「必要不可欠で命の危機にかかわる」ものばかりではなく、「強烈な印象として残っているものや、深く感銘を受けたもの」なども含まれます。たとえば、昔の印象に残った思い出をいつまでも覚えているのは、その記憶が大脳皮質へと移されたからです。

 

では、海馬に「大事な記憶」と判断させるためには、どのようにすればいいのでしょうか。それには、コツが2つあります。

 

まず大事なのは、コツコツと繰り返し行なうことです。

 

英語の単語や熟語、英文法などは「必要不可欠で生命の危険にかかわる」ものではありません。したがって、海馬で「必要なし」という判断となり、すぐに捨てられる記憶となります。いわゆる「忘れてしまう」のです。

 

「エビングハウスの忘却曲線」というものを知っていますか? 時間経過と記憶力を曲線グラフで表したものですが、このグラフを見ると人がいかに忘れやすいかがわかります。

(出典:www.learningsolutionsmag.com)

20分後 ⇒ 42%忘れている

1時間後 ⇒ 56%忘れている

1日後 ⇒ 74%忘れている

1週間後 ⇒ 77%忘れている

1ヶ月後 ⇒ 79%忘れている

 

しかし、「忘れる⇔覚える」を毎日繰り返すことで、徐々に海馬はその情報が重要であると認識していきます。そして、長期記憶の保存場所である大脳皮質に定着しやすくなるのです。

 

また、実際に体を動かすことでも長期記憶の定着が促されます。自転車の乗り方や自動車の運転など、一度覚えてしまうと何十年経っても忘れないのは、運動を伴なう学習をしたからです。

 

そこで、おススメしたいのが「音読」です。「音読」は、口、あご、舌、声帯などを使って発音をしながら読んでいきます。耳で聴くだけでなく、体を使って音を覚えていくので、何度も繰り返すことで長期記憶に情報が保存されやすくなるのです。

 

そしてもう一つは、「エピソード記憶」と呼ばれているものを利用するのです。

 

『脳科学辞典』によりますと、エピソード記憶とは次のように定義されています。

 

『陳述記憶の一つで、「個人が経験した出来事に関する記憶」であり、出来事の内容 (「何」を経験したか)に加えて、出来事を経験したときのさまざまな付随情報(周囲の環境すなわち時間・空間的文脈、あるいはそのときの自己の身体的・心理的状態など)と共に記憶されていることが重要な特徴である。』

 

具体的な方法としては、次のとおりです。

 

印象に残っているストーリーを作りながら英単語を覚える

画像イメージ(リンゴを日本語ではなく画像を想像しながら)で英単語を覚える

 

この記憶方法は、成人にピッタリの方法です。エピソード記憶は論理的な方法であるからです。

 

たとえば、「リンゴ」という単語を覚えたいとします。「リンゴ」の画像をイメージしながら、あなたの最も印象に残っているエピソードを思い出してみるのです。印象が強烈であればあるほど、長期記憶としての定着がスムーズになります。

 

あなたの年齢に合った記憶方法を使うことで、英語学習がより効率的になります。もし、暗記だけに頼った方法で覚えていたのなら、一度視点を変えて取り組んでみましょう。

【まとめ】

リスニングスキル向上には、聴こえてきた音を私たちの脳に「言語」であると認識させることが大切です。

 

しかし、周波数の違い、成長するにしたがって脳が母国語に適応してしまうこと、そして年齢の壁などが、リスニングスキル習得を困難にしています。

 

そこで、「音読」やエピソード記憶による「長期記憶」を司る大脳皮質への定着方法など、脳の機能を知り、それをうまく使った勉強方法を取り入れることが重要です。

 

脳の機能を理解し、そして利用することで、あなたのリスニング学習は一気に飛躍することでしょう。

 

英会話ファーストステップ 清水健雄